漂泊者のアリア(古川薫・著)

打ちのめされた直後にけろりと立ち上がる、落とされても気力が萎えてもすぐに浮かび上がる、無類の楽天家。
そして、一見、女性を弄んでいるようだが、その実は女たちに手のひらの上で転がされている(と私は思った)ことに気付かない、程よい愚鈍さを持った男。
卑屈な感情は抱くものの、それを外への攻撃に変えない藤原義江は愛される人間だと思う。
実際、愛された人生だと思う。
去るもの追わず、来るもの拒まずで生き、淡々と(決して耽々ではない)自分の人生を成功へと導いていく静粛としたパイタリティに感服。
母親を皮切りに、たくさんの女性の思惑に翻弄された人生の末、痛ましい終焉を迎えるのかと思いきや…やはり彼は愛される人でした。
前半部分には親子関係が描かれていて、後半部分には、母親との不仁な関係が起因の義江の恋愛が描かれている。 (もちろん、歌劇に関する部分の面白さも捨てがたい)
母親に関しては、ただ記録のように描かれているので彼女の心情は終始明かされぬままであるが、それが返って読者の心を義江に同調させる効果を生み出しているのではないかと思った。
途中、道楽者であり奔放な義江に対して世間体を気にしてあたふたする人たちが出てくるが、その様子が滑稽で少々笑えた。
最後、老いて朽ちていく義江の描写は切なかったが、それ以上に、階段を駆け上るように地位と名声を得たあき子が、そのまま天国まで駆け上がってしまったのがさらに切なかった。
長くなってしまったけれど、久々に読み終えるのが惜しい作品でした。

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